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受験情報ブログ

UNKNOWN WORLD 尾嶋好美先生の自由研究&実験アドバイス

情報誌『shuTOMO』1/8号の尾嶋好美先生「UNKNOWN WORLD」の特別編です。

尾嶋好美先生に伺った「自由研究&実験のススメ」を、特別編としてWebでお伝えします。取材・構成/ブランニュー・金子裕美〉

浮きこぼれている子の目を輝かせたい

-尾嶋先生は2008年から筑波大学が実施した「未来の科学者養成講座」等の科学教育プログラムで、長年、小中高生の自由研究を支援されてきました。自由研究に熱心に取り組む小中高生と接してきて、感じたことを教えてください。


尾嶋先生 筑波大学の科学教育プログラムには課題研究に熱心に取り組んでいる小中高生が参加していました。一人ひとりのテーマに合わせて、大学教員と大学院生が個別に研究支援を行う環境のもと、懸命に研究に取り組み、成長していく姿をたくさん見て来ました。そのなかで私が感じたのは、小さい頃から浮きこぼれている子がたくさんいるということです。「浮きこぼれ」とは「落ちこぼれ」の逆です。ほかの生徒よりも科学に対する興味が深く、知識もあるので話が合わないことがあるのです。そのような生徒たちは、学校の先生にはサポートをしてもらうことが難しく、周りにいる人たちとは研究の話をしていないことが多いです。でも、大学のプログラムに参加すると、自分と同じようなことに興味を持っている子、同じように研究に熱中している子もたくさんいるので、気兼ねなく研究の話ができます。初めて分かり合える友だちができるのです。子どもたちの目が輝くのは自然なことですよね。

 なおかつ、プログラムの先輩の中には、世界レベルの科学コンテストに出ている人も多くいるので、世界大会に行くことが自分自身の目標になります。そして、それらの先輩たちから、研究を続けるために必要なことなども教えてもらうことができます。「好きなことを思う存分語り合える場」を作ってきたことにより、子どもたちが粘り強く研究に取り組み続けて、「博士課程に進み研究者になりたい」という話を聞くと、心から嬉しい気持ちになりました。

― 経験を通して得た思いが、「オンライン科学実験教室 STEP」の立ち上げにつながったのですか。


尾嶋先生 そうですね。これまで500名余りの生徒を支援してきましたが、高校生になっていきなり課題研究を始めるのは難しいと実感しました。世界大会に出た生徒たちは全員、小中学生の時から研究をしていました。研究を行うためには「どのような実験方法があるのか」ということを知っている必要があります。また、「たまたまそういう結果になったのではなく、何度やっても、だれがやっても同じ結果になる」という「再現性」など、研究において大切な考え方を身につける必要があります。高校生になってから始めて、さまざまな実験手法や、研究に必要なことを学ぶのは大変です。小中学生の頃から自分自身でいくつもの実験をすることにより、自然に身につけるのがいいと考えています。


 そのような思いがあり、これまで家庭でできる科学実験本を書いてきたのですが、「本は読むけど実際にはやらない」という方が多いようです。でも本を読んで結果を知るのと、実際に自分で体験するのとでは全然違うんですよね。そこで「私と一緒に実験する機会があれば、やってくれる人が増えるのではないかな?」と考えてオンライン実験教室を始めました。参加者の方には「なかなかやろうと思わなかったけど、先生と一緒にやることで細かな注意点などもわかるので安心して実験できた」と言っていただいています。15年間に渡り多くの子どもたちの課題研究支援を行ってきたことで、どんなところで小中高生がつまずきやすいかもわかるようになりました。STEPではこれまでの経験を通して得られたものをすべて活かしていきたいと思っています。...

自由研究で思考力を磨こう

-先生から研究についてのアドバイスももらえるということですよね。


尾嶋先生 研究とは、自分がわからなかったことを、さまざまな実験・分析を通して明らかにしていくことです。でも、一人でやると、誤った方法で実験を進めて結論を出してしまう場合があります。例えば「植物の発芽には水が必要なのだろうか?」と疑問に思い、自分で実験することにしたとしましょう。「2つのお皿にタネを入れ、片方には水を入れ、もう片方には水を入れなかった。2つのお皿を冷蔵庫に入れてしばらくたっても両方とも発芽しなかった」という実験結果になった場合、「水があってもなくても発芽しない。水は発芽に関係ない」と結論付けるのは正しいでしょうか? 発芽には適切な温度があります。冷蔵庫では温度が低すぎた可能性がありますよね。そのような場合に、「冷蔵庫に入れないで実験をしてみたらどうなるかな?」というように、科学的知識に基づいて再実験をすすめるアドバイスがあるとよいのではないかと思います。

 また、科学研究においては「実験条件を同時に2つ以上変えない」ということも大切です。例えば、パンを作る主な材料は小麦粉、砂糖、塩、油、ドライイーストです。ドライイーストを入れるとパンがふくらむわけですが、どうしてふくらむかを調べるには、ドライイーストと塩、ドライイーストと砂糖……と、条件を分けて調べます。ところが、これがなかなか難しく、2つの条件を同時に変えてしまうことがあります。複数の条件が違うと何が原因かが突き止められません。STEPではまずは私と一緒に実験をすることで、実験の楽しさを知ってもらいたいと思っています。その後、一人ひとりと相談しながら自由研究のテーマ設定を行い、実験方法の個別アドバイスを行っていきます。

-自由研究の大切さを、改めて教えてください。


尾嶋先生 今、「思考力が大事」と言われていますが、それを身につけるために何をすればいいのでしょうか。そういう教科があるわけではありませんよね。答えがあるものだけを学んでいても思考力は身につきません。自分が知りたいと思ったことを試行錯誤して明らかにしていく自由研究は、思考力のトレーニングとして非常に適していると思います。


 自由研究では、結果がすでに分かっていることをやるのではなく、「本に書いていないこと、インターネットで調べても出ていないこと」について自分なりに調べていってほしいと思っています。やり方としては〈①実験本の中から、子ども自身が選んだ実験をやってみる。②そこから何らかの条件を自分なりに変えてやってみる。③結果を比較して、なぜ違うのかを考えてみる。〉という3ステップになります。実験本に書かれていることは「こういう条件で行ったらこういう結果になる」ということなので、そこから、条件を変えてやってみるなど、工夫をすることによって自分で考える力がついていきます。


 「子ども自身が選んだ実験をやる」ということはとても大切です。「おもしろそう。やってみたい」と思うことを、実際にやってみて、楽しい、おもしろい、と感じれば、自ずと次の実験を探したり、条件を変えたらどうなるかな、と発展させてみたりすると思います。それにより、今の時代に必要な思考力がついていくと考えています。是非、実験を楽しんでください!